今回は、きのあ将棋の攻略情報として、後手番で郷谷さん(上級)に快勝した棋譜を紹介します。
後手(私)の「四間飛車」に対し、先手(郷谷さん)が「居飛車で▲4六銀(左銀)急戦」を仕掛けてきた一局です。
今から20年以上前に現れた当時かなりビックリした新手による勝利だったので、ちょっとした定跡の勉強にもなると思います。
68手で決着した急戦らしい短手数の将棋をお楽しみください。
四間飛車でも△4三銀で持久戦になるのか試してみた
「後手番の三間飛車で早めに△4三銀を決めると持久戦になりやすい」という記事を先日書いたんですが(その記事はこちら)、「四間飛車だとどうなるのかな?」と試してみたのが始まりの1局です。(下図)
三間飛車だと8割くらい▲7七角 と上がって持久戦を宣言することが多いですね。
ただ、今回はそうならずシンプルに▲5六歩と突かれ、まだまだ様子見という感じでした。
こちらは持久戦の練習をしたかったので藤井システム風に駒組みを進めたんですが、早めに▲3六歩 と急戦を宣言されたので普通の急戦定跡に進みます。
▲4六銀(左銀)戦法 vs 四間飛車

上図は「▲4六銀(左銀)戦法」による四間飛車へのオーソドックスな急戦になった局面です。
この「▲4六銀(左銀)戦法」は私が初めて買った定跡書の「羽生の頭脳1」で学び、今でも愛用している思い出深い戦法です。
いつもは私が使う側なんですが、やられる側になると新鮮ですね。
郷谷さんはここから王道の仕掛けをしてきました。
上図以下、▲3四歩 △同銀 ▲2四歩 △同歩 ▲3八飛(下図)
2筋の歩を突き捨ててから飛車を寄る一番激しいタイプの急戦ですね。
ここから大捌きの急戦定跡に突入します。
上図以下、△4五歩(下図)
角交換から駒を捌いてしまおうという振り飛車らしい一手ですね。
上図以下、▲3三角成 △同飛 ▲2二角(下図)
ここからシンプルに駒を取り合うと先手優勢になります。
まずは四間飛車側は警戒しないといけないその手順を示しますね。
上図以下、△4六歩 ▲3三角成 △同桂 ▲3四飛 △4三金(下図)
△4六歩 と銀を取り、▲3三角成 から銀を取り返される大捌きは駒の損得はありませんが、駒の働きの差で四間飛車側が不利になります。
もし、2筋の突き捨てがなければ上図の△4三金 に飛車を引くしかなく良い勝負なんですが、突き捨てがあると・・・
上図以下、▲2四飛(下図)
と気持ちよく飛車を捌けるので先手が有望です。
これが▲2四歩 を突き捨てた狙いなので、こうならないように指す必要があります。
20年以上前に出た驚異の新手

上図は▲2二角 と打ち込まれ、先手が理想の捌きあいを狙ってきた局面です。
ここからシンプルに△4六歩 と駒の取り合いをするのは先ほど書いた通り先手の思うツボになります。
そうしたくない四間飛車側はここで脅威の手順を編み出しました。
上図以下、△3七歩 ▲同飛 △3六歩 ▲同飛 △4六歩(下図)
▲2四歩 の突き捨てによって得た2歩を使って△3七歩 ~ △3六歩 と飛車を叩き、3六の地点まで吊り上げてから△4六歩 と銀を取るのが盲点になっていた新手でした。
「さっきと何が違うの?」
と思う方もいると思いますが、ちょっと手順を進めると分かります。
上図以下、▲3三角成 △4五銀(下図)
取れる馬を取らず、スルっと△4五銀 と出るのが好手です。
この時、飛車に当たるのが先ほどとの違いですね。
馬と飛車の両取りになり、どちらの処理も難しいです。
このちょっとした違いで先手は困っているというのだから将棋は恐ろしい・・・
上図以下、▲3九飛 △3三桂 ▲同飛成 △5六銀(下図)
と進むと、先手の飛車が手損して成り込んでる内に銀がスルスルと急所へ侵入し、駒の働きに差がついています。
先手陣は角を打ち込まれるスキも多く、かなり戦いにくい状況になっていますね。
ちなみに、プロの将棋で初めてこの新手を食らったのは羽生さんだったんですが、ここから逆転勝ちをしています。
この時の棋譜は羽生さんの勝負術が光る素晴らしい1局だったので見てみるといいですよ。
棋譜はこちら ↓
羽生善治 vs. 石川陽生 全日プロ - 無料の棋譜サービス 将棋DB2
郷谷さんは飛車を逃げない変化を選びました

上図は△4五銀 とかわして飛車と馬の両取りになった局面です。
ここから飛車を逃げる変化は四間飛車優勢なので、郷谷さんは違う手を選びました。
上図以下、▲1一馬 △3六銀 ▲4六歩 △2八飛 ▲2一馬(下図)
先手は飛車を見捨てて馬で香と桂を取り、後手は飛車を取って打ち込む、というお互いに我が道をいく展開になりました。
ここからシンプルに△4七銀打 と絡むのが最善だったようですが、「単純すぎてアレかな?」と思った私は違う手を指しました。
上図以下、△2九飛成(下図)
次に狙いがある一手ですが、その狙いを防ぐ▲3九歩 とか指されたら長引きましたね。
ただ、今回の郷谷さんは攻めっ気が強く受けませんでした。
上図以下、▲4四桂(下図)
美濃囲いの金を攻める王道の一手です。
私は金を逃げたんですが、対局後にAperyで検討したらここで決める一手がありました。
上図以下、△8八角(下図)
こちらの攻めの方が早いという見切った手ですね。
シンプルに進めると後手の勝ちみたいです。
上図以下、▲5二桂成 △9九角成 ▲6一成桂 △8九馬(下図)
この状況で△9九角成 と1回そっぽにいく感じが読み切りって感じですね。
後手玉は斜めに進む駒がないと詰まないというのを見切っています。
△8九馬 も取りたいんですが、取れば△6九竜 ▲7九金 △9九金 という手順からちょっと長いですが詰むので取れません。
上図以下、▲6八玉 △7九銀 ▲5七玉 △6五桂 ▲6六玉 △6九竜(下図)
先ほどの△8九馬 に続き△7九銀 も先手が欲しい斜め駒なんですが、取ると詰むので逃げるしかありません。
そして「斜め駒がないから詰まないでしょ?」と言いたげに悠々と△6九竜 の詰めろを掛けて勝利です。
以下、受けるにしても▲3一馬 と寄るくらいですが、△7四金と押さえて勝ちですね。
ここまで読み切れていればカッコイイんですが、私にそんなことができるわけもなく・・・
平凡な寄せでどうにか勝利

上図は攻めっ気の強い郷谷さんが美濃囲いの金を狙って▲4四桂 と打った局面です。
ここから△8八角 で勝ちというのがAperyの答えでした。
ちなみに、私が指したのはこんな手です。
上図以下、△6二金寄 ▲3一飛(下図)
金を逃げる平凡な一手・・・
まぁこれでも悪くないですが、ここで▲3九歩 と受けられたら長引きましたね。
でも、今日は攻めっ気が強く▲3一飛 と打ち込んできたのでどうにかなりました。
上図以下、△8六桂 ▲同歩 △8七角 ▲同玉 △6九竜(下図)
という6九金型の船囲いの弱点を突いた定番の寄せが決まりましたから。
ここも△8六桂 じゃなく△8八角 の方が最善だったみたいですけどね。
でもどちらも大差ないので良しとします。
上図以下、▲7八香 △5八竜 ▲5四馬 △7九金 ▲7七玉 △7八金 ▲6六玉(下図)
後手玉は余裕があるのでゆっくり寄せていきました。
そしてここで決め手が出ます。
上図以下、△5三香(下図)
上部脱出を阻止して完了です。
上図以下、▲6一飛成(下図)
と指され、△同銀 と取った所で郷谷さんの投了となりましたが、ここで詰みがあったみたいです。
上部脱出を防ぐだけで読みを打ち切っていたので気付いていませんでしたが、最後にその手順だけ簡単に書いておきます。
もしお時間がある方は実戦詰将棋としてお楽しみください。
では答えです。
上図以下、△5六竜(下図)
とバッサリいくのが正解です。
上図以下、▲5六同玉 △5四香 ▲5五歩 △6五銀 ▲同玉 △7四角(下図)
と打てばどこへ逃げても金打ちから詰みます。
5五の合駒が「金」や「飛車」だった場合・・・(下図)
手順は以下のようになります。
上図以下、△5五同香 ▲同玉 △6四角(下図)
この角打ちから詰みます。
上図以下、▲6六玉 △5五金 ▲5七玉 △4六金 ▲5八玉 △4七銀打(下図)
と押し込んでいけば詰みです。
今回のポイントだった新手の銀が3六にいるおかげで、さりげなく右への逃げ道を塞いでるのがよくできています。
上手くいく将棋っていうのはこういう事があるから面白いですね。
最後に
後手番で郷谷さん(上級)に快勝した棋譜を紹介してみました。最近はあまり見かけない形だったので、対四間飛車への急戦定跡をあまり知らなかった方に少しでも参考になったら嬉しいです。
今回の将棋のように、ちょっとした駒の位置の違いで結論が変わることがあるので、いつもの見慣れた局面で1発叩いてみるクセをつけてみるといいかもしれませんね。
大半は指しすぎになるかもしれませんが、もしかしたら今回のような新手の発見に繋がるかもしれませんから。
そういった練習相手として「きのあ将棋」は最適なので、試したい一手がある方は利用してみてください。
郷谷さんと対局したくなった方は下記リンクからどうぞ。