脱・初心者を目指すための
5級を越える将棋講座
第9回は
基本となる手筋「歩」編
の4回目として
「上手く決まればプロのようなカッコよさ」
がある
「焦点の歩」
を紹介します。
劇的な効果をもたらす歩の使い方を学び、5級を越えるキッカケを掴んでください。
「焦点の歩」とは・・・
「焦点の歩」というのは
相手の駒の利きが「重なっている所」に持ち駒の「歩」を打つ一手
のことです。(下図)
※「香車」と「桂馬」の利きが重なった所に打った▲1三歩 が「焦点の歩」の一例です(上図の手の意味は後半に解説します)
ここまでに紹介してきた
・叩きの歩
・中合いの歩(第1回の「底歩」の所でチラッとですが・・・)
などの応用手筋になります。
・形を乱す
・駒の働きを弱める
という「狙いは同じ」なんですが
「相手の駒の利きが重なった所に打つ」
というのがポイントで
「より効果が強力になっている」
のが「焦点の歩」の特徴です。
これは具体例を見てもらった方が分かりやすいので、よく見かける6つの形を元に解説します。
形を乱す「焦点の歩」
「焦点の歩」でよく現れるのが「相手の駒の利きが重なった所」
に打つことで
「叩きの歩」の効果が増したパターン
です。
「焦点」を「叩いた」ことでより強烈に形を乱した例を紹介します。
① 矢倉崩しの「焦点の歩」
「焦点の歩」としてメジャーなのが下図の局面です。矢倉の上部にいる金と銀の「焦点」に歩を打つことで「叩きの歩」が劇的な効果を生みます。
上図以下、▲3四歩(下図)
ここに打つのが急所をとらえた一手です。
どう対応しても後手は駒損を避けられません。
△3四同銀 と取った場合は▲3五歩(下図)と打てば銀が取れますし・・・
「銀がダメなら・・・」
と、△3四同金 と取っても同じように▲3五歩(下図)と打てば金を取れます。
駒が重なったことで守りが固くなるのではなく
「返ってアタリが強くなった欠点」
を突いたのが▲3四歩 です。
このように「駒の利きが重なった欠点」を突くのが「焦点の歩」の特徴になります。
② 駒得を狙う「焦点の歩」
上図は「相居飛車」の将棋で見かける形です。
金と銀がしっかり2筋を受けているので攻めるのが難しそうですが・・・
「焦点の歩」一発
から最低でも「桂得」、上手くいけば「飛車の成り込み」を狙うことができます。
そのスタートがこの一手です。
上図以下、▲3三歩(下図)
あえて「金」「銀」「桂」の3枚が利いている所に打つ
のが好手で、どう対応しても先手の攻めが成功します。
△3三同銀 と銀で取るのは▲2一飛成(下図)ですし・・・
△3三同金 と金で取るのは▲2二飛成(下図)と銀を取って大成功です。
もし▲3三歩 を取るなら△同桂(下図)と桂で取るのが最善ですが・・・
上図以下、▲3四歩(下図)
▲3四歩 と桂取りに打てば駒得が確定して充分です。
上図で後手の最善の受けは△2三歩 と打って▲3三歩成 △同銀 と桂を取らせて局面を落ち着ける手なんですが・・・
もし桂取りを嫌って△4五桂(下図)と逃げると・・・
上図以下、▲3三銀(下図)
露骨に銀を打ち込まれて崩壊します。
初手の▲3三歩(下図)を取らずに金を逃げる手も考えられますが・・・
△4二金 は▲2二飛成 ですし・・・
△2三金 には▲3二銀 と打つか、▲3二歩成(下図)と「と金」を作れば先手ペースです。
そうなると残されたのは△3一金(下図)しかありません。
上図以下、▲3二銀(下図)
これには▲3三歩 を拠点に▲3二銀 と打てば先手の攻めが止まらず後手は崩壊します。
たった一発「焦点」に「歩」を打っただけでほぼ受けがない例でした。
相居飛車の将棋で3筋に歩が打てる時は▲3三歩 をお試しください。
③ 振り飛車の形を乱す「焦点の歩」
上図は「居飛車急戦」vs「振り飛車」の将棋で見かける形です。
後手の「飛車」と「角」が3~4筋によく利いていて、居飛車がこれ以上 攻めるのは難しそうですが・・・
上図以下、▲3三歩(下図)
「飛」「角」「桂」の3枚が利いた所に打つ▲3三歩 が
3~4筋に利いた「飛車」と「角」の利きを1つに絞る「焦点の歩」
で攻めを続けることができます。
△3三同桂 や△3三同角 と取るのは「3二の飛車の利きが止まる」ので▲3四飛(下図)と銀を取って先手勝勢になります。
歩を取るなら△3三同飛(下図)しかありませんが・・・
今度は2二の角の利きが止まったので・・・
上図以下、▲4四角(下図)
4四に角を出る手が生じました。
上図以下、△4三銀(下図)
ただ、▲4四角 には△4三銀 と引いて角取りに当てながら飛車交換を狙う振り飛車らしい一手があり・・・
以下、▲3三角成 △同角 と飛車 角交換になった局面は、陣形にもよりますが互角(やや振り飛車持ち?)の戦いになります。
勝負が決まる「焦点の歩」ではありませんでしたが、手を繋ぐ一手として覚えておくと役立つと思いますよ。
④ 舟囲いを崩壊させる「焦点の歩」
今度は振り飛車目線の「焦点の歩」を紹介します。
上図は、7一の飛車 の横利きが舟囲いの下段に通ったまま放置された局面です。
この形の場合、「焦点の歩」一発で舟囲いが崩壊します。
上図以下、▲3三歩(下図)
「玉」「金」「桂」の3枚が利いた所に打つ▲3三歩 が好手です。
どう対応しても後手はピンチを避けられません。
△3三同玉 は▲2一飛成(下図)と桂を取られますし・・・
△3三同桂 は▲1一飛成(下図)と香車を取られてしまいます。
かといって△3三同金 と取るのは金が上ずったスキを突く▲4一銀(下図)の割り打ちを食らって厳しいです。
残すは△2二玉 と逃げる手ですが、▲3一銀(下図)の割り打ちが厳しく受けになりません。
飛車筋が下段に通った舟囲いへの▲3三歩 は歩1枚で囲いが崩壊する典型になります。
ちなみに、実戦では3筋の歩が切れていることは少ないので▲3三香(下図)と香で代用することが多いです。
以下は▲3三歩 の時と同じパターンで崩壊します。
実戦でも使える一手なので、もし居飛車が受けを疎かにした時はお試しください。
駒の働きを弱める「焦点の歩」
「焦点の歩」には駒の働きを弱める
という使い方もあります。
よく見る2つの例を元に紹介しますね。
⑤ 桂・香の利きに打つ「焦点の歩」(垂らしの歩)
上図は「焦点の歩」の例として紹介した図の一手前です。
ここから持ち駒の「桂」と「歩」を活かして端から攻略する手順があります。
上図以下、▲1三歩(下図)
それが「桂」「香」の焦点に打つ▲1三歩 です。
「歩の手筋 第3回」の「叩きの歩」
で、持ち歩が豊富な状況ならではの▲1二歩 △同香 ▲1三歩と連続で叩く
「連打の歩」
を紹介しましたが
・そこまで急いでない
・歩を節約したい
という場合は
控えて打つ ▲1三歩
でも成立します。
これは直接叩かずにちょっと控えて打つ「垂れ歩」の一種として
「垂らしの歩」
と呼ばれる一手です。
意味としては「焦点の歩」でもあるので「手筋は繋がっている」というのが分かる感じですね。
▲1三歩(下図)と垂らされた後手は・・・
香車の利きを止められた微妙に嫌な形なので
・「桂」で取る
・「香」で取る
・放置する
という選択を迫られています。
それぞれの応手についての対応手順を紹介します。
△1三同桂(下図)と取った場合は・・・
上図以下、▲1四歩(下図)
桂取りに歩を打てば桂得が確定して先手ペースです。
以下、△2五桂 と逃げても▲2六歩 と歩を突けば取れますね。
次は▲1三歩 を△同香(下図)と取った場合です。
上図以下、▲1四歩 △同香 ▲2六桂(下図)
これには▲1四歩 の「叩きの歩」で吊り上げてから▲2六桂 と打てば香が取れます。
この▲2六桂 までの流れは端攻めの基本なのでしっかり覚えてください。
最後は▲1三歩 を放置した場合です。
この場合は▲1五香(下図)と歩を取れば端を制圧できます。
後手は▲1二歩成 を許すわけにはいかないので・・・
・△1三香
・△1三桂
と香か桂で歩を取る変化に分かれます。
△1三香(下図)と香で取ってきた場合は・・・
相手に香車をすぐ渡したくないなら▲1四歩(下図)と打ち・・・
上図以下、△1四同香 ▲同香 △1三歩(下図)
と、ちょっと香を取るタイミングをズラすのが効果的です。
後手が香を取り返す一手の間に有効な手を指せれば優勢を拡大できます。
もし香を渡してもいいなら△1三香 を▲同香成(下図)とダイレクトに取り・・・
上図以下、△1三同桂 ▲1四歩(下図)
香を取り返した△1三同桂 に▲1四歩 と打ってシンプルに桂取りにしながら端を破ればOKです。
▲1五香 に対し△1三桂(下図)と桂で歩を取ってきた場合は・・・
上図以下、▲1二歩(下図)
すぐに▲1四歩 と打つのではなく、1回 ▲1二歩 と香を叩き、後の△1二歩 と受ける手を消すのが
「敵の打ちたい所に打て」
の格言を体現した「端攻めの手筋」です。
上図以下、△1二同香 ▲1四歩(下図)
1二に香を吊り上げてから▲1四歩 と打てば後手に受けはありません。
△2五桂 と逃げても▲2六歩 で桂を狙ったり、▲1三歩成 で香を狙ったり、欲しい駒を取れる先手ペースです。
ちなみに、▲1二歩 と香を叩かずに▲1四歩(下図)と打った場合・・・
上図以下、△1二歩(下図)
△1二歩 と受けられてしまい・・・
上図以下、▲1三歩成 △同歩(下図)
桂は取れましたが、端攻めは受けられてしまっています。
今度は逆に△1四歩 から香取りを狙われる展開になって微妙です。
端攻めをする時は、先に▲1二歩(下図)と打って
・駒を1三に近づける
・△1二歩 と打つスペースを消す
のは有効な一手になることが多いです。
この手は「勝敗を分ける一手」になるので、覚えておくと役立ちますよ。
⑥ 大駒の利きを弱める「焦点の歩」
「焦点の歩」で駒の利きを弱める場合大駒の焦点に打つ
のが効果的です。
その実例を1つ紹介します。
上図は「振り飛車」vs「居飛車」の終盤戦の一部を切り取った局面です。
9筋にいる後手の「馬」と「飛車」が受けにも攻めにもよく利いていますね。
このまま大駒2枚に威張られているとよくないのでどうにかしたい所です。
そういった時に有効なのが「焦点の歩」になります。
上図以下、▲8八歩(下図)
飛車と馬の利きが重なった8八に歩を打つのが
大駒の利きを弱める好手
です。
もし△8八同飛成(下図)と飛車で取ると・・・
受けに利いていた馬の利きが止まるので・・・
上図以下、▲3三香(下図)
先ほど紹介した舟囲い崩しの「焦点の香」が決まります。
どう対応しても後手玉は崩れるのでこれは先手ペースですね。
飛車で取れないなら△8八同馬(下図)と取るくらいですが・・・
こうなると先手の美濃囲いを睨んでいる飛車の利きが止まり、先手玉がちょっと安全になります。
終盤ではこういう1手の猶予が大きいので、▲8八歩 のような1歩の犠牲によって勝ちになることが多々あります。
飛車や角が威張ってる時に働きを弱めたいと思ったら
「大駒の焦点に歩を打ってみる」
のは勝負を決める一手になったりしますよ。
こういう手の価値が分かってくれば5級は余裕で越えています。
今はまだ難しいと思いますが、5級越えのキッカケとして
「歩1枚で大駒の働きをで弱められる」
という発想を持つだけでも大きいです。
実戦で一瞬でも浮かべば5級越えは目の前ですよ。
最後に
基本となる手筋「歩」編第4回として、歩の力を最大限に活かした
「焦点の歩」
を紹介しました。
今回の基本的なパターンを元に
「駒の利きが重なった所は急所かもしれない」
という発想を持って、実戦で「焦点の歩」を狙ってみてください。
・桂を跳ねさせて駒得を狙う▲3三歩(下図)
・舟囲いを崩す▲3三歩(下図)
・端攻めを狙う▲1三歩(下図)
なんかは実戦で類似形がよく出てくるので
「あれ? なんか見たことあるかも・・・」
と思ったら思い切って狙ってみてください。
実戦で上手く決まった時は気持ちよすぎてヤバイですよ。
ここまで
基本となる手筋「歩」編
として4回に渡って紹介してきた
・合わせの歩
・底歩
・継ぎ歩
・垂れ歩
・叩きの歩
・焦点の歩
という6つが最も基本となる「歩の手筋」です。
5級を越えるにはこの6つを覚えれば大丈夫なので、今回で
5級を越える将棋講座 基本となる手筋「歩」編
は終了になります、お疲れ様でした。
次回からは「歩」以外の駒の手筋を紹介します。
ここまでに覚えた「歩の手筋」がぼんやりと浮かぶようになり
「なんとなく歩を使った手がありそうなんだけど・・・」
と、手が止まって考えるようになれば5級越えは目の前です。
数が多くて難しいかもしれませんが、実戦の中で1つ1つ取り入れてゆっくり覚えていってください。
※「5級を越える将棋講座 第10回」は下記リンクからどうぞ。
【5級を越える将棋講座 ⑩】香の手筋1「田楽刺し」と「歩の代わりに使う香」を解説【焦点の香】 - ダメ人間ブログ【ニートの愚痴と将棋の記録】