今回は、一手損角換わりを基礎から学べる本
「現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~」
のレビューをしたいと思います。
この本は、あえて手損をする謎の戦法
「一手損角換わり」
について、初期の形から最新の形までの流れを一通り学べる本です。
「一手損角換わりって何を狙った戦法なの?」
「なんでこのタイミングで角交換をするの?」
「手得を活かした速攻を受け止めるにはどうしたらいいの?」
といった基本的な部分からザっと頭に入れたい人にオススメの本ですね。
この記事では
・大まかな内容
・収穫のあった部分
に触れながら感想を書いていくので、購入を迷ってる方のお役に立てれば嬉しいです。
一手損角換わりの狙いとは・・・
将棋の基礎を覚えてきた頃に「一手損角換わり」の棋譜を見ると「ただでさえ一手遅れてる後手がさらに手損して大丈夫?」
「何をどうやったら手損することがメリットになるの?」
「っていうか、あえて手損する必要なんてある?」
「そもそもプロレベルで成立する戦法なの?」
といった疑問を持ちますよね。
第1章ではそういった疑問を解決するために
・現代将棋の感覚
・後手番の作戦
に触れながら
「一手損角換わりとは何を目指した戦法なのか」
についてサラッと語られています。
・先手の〇〇〇〇を目指している
・現代将棋で重要な〇〇を捨てた
・〇〇〇も視野に入れた〇〇みたいな戦法
といったポイントが分かると見方が変わると思いますよ。
一手損角換わりの歴史が分かる
「一手損角換わり」で有名なのは「相腰掛け銀」で「あえて手損して飛車先を伸ばさず、△8五桂 の余地を残した方が得?」
という下図の形が有力視されたことですよね。
ここから▲4五歩 を皮切りに▲7五歩(下図)まで満遍なく歩を突き捨てて桂頭攻めを狙うのが定番ですが・・・
「従来の同型と違って桂を逃げられるから先手の攻めが上手くいかない」
と判明してから先手の長い長い試行錯誤が始まりました。
本書ではここからどういう形に先手が工夫し、それに後手がどう対応していったかの流れをザっと学ぶことができます。
・一手得を活かした速攻を狙う「棒銀」
・駒組みで差をつける「右玉」
・違う攻め筋を模索する「腰掛け銀」
・新しい発想で見直された「早繰り銀」
など、一手損角換わりを指すなら外せない手順が目白押しです。
これらの手順で参考になった部分の感想を軽く書いていきいます。
一手損ならではの「棒銀」が面白い
速攻を狙う「棒銀」には△5四角(下図)と打ち・・・飛車を牽制するのが定跡ですよね。
この手には▲3八角 と打ち返すのがよく見る手順ですが、ここで先手に違う応手があったのが参考になりました。
たまに「きのあ将棋」で遊んでる時にやっていて
「ちょっと素人臭いかな?」
と思っていた手なんですが、これはこれで無くはない手と分かったのは収穫でしたね。
他にも、▲1五銀 を防いで端棒銀を誘う△1四歩(下図)の形で・・・
「速攻を狙われてる後手に一手損したのが得になる展開もある」
というのは意外でした。
「なんでもかんでも多く指せばいいってもんじゃない」
という将棋の難しさを感じましたね。
先手の「右玉」への名角
手得して取った1筋の位を活かす発想として「右玉」(下図)を目指す展開があるんですが・・・ここから数手後に後手から打たれる名角は知っておく価値がある一手だと思います。
右玉対策として頭に入れておくと使える日が来るかもしれません。
「腰掛け銀」の変化は「これからの角換わり腰掛け銀」を読むといいかも
「腰掛け銀」の変化にはそこまで深く振れていないため、もう少し掘り下げて知りたかったら「これからの角換わり腰掛け銀」
を併せて読むと良いと思います。
本書でサラッと触れている▲4八飛(下図)からの手順について・・・
類似の手順を専門的に解説している本なのでオススメです。
先手の作戦で最も有力な「早繰り銀」は詳しく解説されている
一手損角換わりに対し、最も有力とされているのが「早繰り銀」(下図)というのもあり・・・初期の形から最新の形まで詳細に解説されているのが本書の売りです。
著者の糸谷先生が2010年のNHK杯で渡辺竜王(当時)をほぼノータイムで圧倒した頃の形についても進化の手順を追って解説されていて読み応えがありました。
ここを理解すると「早繰り銀」について大まかな流れが分かるだけではなく、序盤に角交換にいくタイミングの違いについても理解できます。
・▲2五歩(下図)を突かせてから角交換をする形
・▲2六歩(下図)を突いたらすぐに角交換をする形
など、最序盤の何気ない所ですでに勝負が始まっていることが分かればワンランク上にいけますね。
「ダイレクト向かい飛車」の乱戦も解説されている
一手損角換わりを指すならセットで覚えたい戦法として「ダイレクト向かい飛車」(下図)
があるんですが、本書ではまず乗り越えなければいけない▲6五角(下図)への対応手順がしっかり解説されています。
これを理解すれば戦法の幅が広がって楽しくなりそうですね。
他の本を買わなくても基本的な応手が学べるのはありがたかったです。
最後に
一手損角換わりを本格的に学ぼうと思ったなら「初期の形から現代の形になるまでにどういった試行錯誤が繰り返されてきたか」
の歴史をザっと学べる
「現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~」
は外せない一冊になります。
・△8四歩 を突いているか突いてないか
・△3二金 と上がっているか保留してるか
などの小さな違いがどう影響するのか・・・
本書を読んでこういった細かな所まで理解すれば指し方が大きく変わってくると思いますよ。
漠然と指している人と明確な差をつけたい方はぜひ読んでみてください。