今回は、読む前と後で将棋を見る目が変わる一冊
「現代将棋を読み解く7つの理論」
のレビューをしたいと思います。
最近の将棋を見ていると
・先後同型の「雁木」や「角換わり」
・速攻の▲4五桂 急戦
・居玉のまま仕掛ける
など、従来では考えられなかった将棋が増えてきていると思います。
20年以上前から将棋をやっている人がこれらの将棋を見ると
「先後同型は先手が先に仕掛ける展開になるから後手番なら避けたい」
「早々に桂馬を跳ねるなんて『桂馬の高跳び歩の餌食』の典型だから指しずらい」
「玉を固めてから仕掛けないと不安・・・」
という感覚があったりして、現代のスピード感がある指し方が苦手だったりするかもしれません。
「現代将棋を読み解く7つの理論」は、そんな感じで現代将棋の感覚についていけず
「なんでこんなにスリリングな将棋を指すようになってるの?」
「ここ10年ちょっとの間に何があった・・・」
というような置いてけぼりを食らった思いがある人にこそ読んで欲しい本です。
従来とは違う現代将棋の感覚を言語化し、
7つの理論
として分かりやすく解説しているので現在はどんな感覚で指されているのか分かり、読む前と後で将棋を見る目が変わりますから。
「昔は考えられなかったこの手はそういう感覚で指されているのか・・・」
と、これからのプロ将棋を見る目や定跡書を読む時の理解度がガラッと変わりますよ。
この記事では、一通り読んだ私が大きくネタバレしない範囲で感想を書いていくので、購入を迷っている方の参考になれば嬉しいです。
- 「7つの理論」を知ることで手の意味が理解できる
- 第1章の「相対性理論」を知ると指し方が変わる
- 現代の主流戦法は「明確な理論」の元に成り立っている
- 定跡よりも「7つの理論」を元に手を考えると良い手が見つかるかも
- 最後に
「7つの理論」を知ることで手の意味が理解できる
将棋の勉強と言えば・詰め将棋を解く
・次の一手を解く
・定跡書を読む
・棋譜並べをする
・実戦から学ぶ
・AIで研究する
など色々な方法があり、手順や解説を見て将棋の流れやパターンを理解していくのが一般的ですよね。
でも、よくよく考えてみると
「なんでこの手が良い手なんですか?」
と聞かれた時に
「こういう理由や理論があるから良い手なんですよ」
と答えられない手があったりしませんか?
「まぁプロやAIが指した手だから良い手なんじゃないかな」
「定跡だからとりあえず指してる」
という感じで、
明確に一手一手の意味や理論は説明できない・・・
でも何となく将棋をやってきた経験から良い手っぽいのは分かる・・・
なんて感じだったりしません?
そんな
「理屈は分からないけど良い手っぽい」
という曖昧な部分を理解する手助けになるのがこの本なんです。
この本で解説される「7つの理論」を理解すれば漠然と見ていた将棋の内容が
「この手は『〇〇理論』の〇〇だな」
「ということはこういう意味の一手か・・・」
という感じで論理的に理解して説明できるようになります。
そうなると、フワっとしていた将棋の感覚に「基準となる1つの柱」ができた感じになり、これからの将棋を見る目が変わってきます。
「7つの理論」を知ることは将棋というゲームを理解する大きな手助けになりますね。
無意識に感じていたけど曖昧でハッキリ理解できていなかったことを明確に言語化した「あらきっぺ」さんは本当にすごい人です。
「将棋に一番熱中していた高校生の頃にこの本に出会いたかった・・・」
と思うほど、読んで良かった将棋の本ベスト5に入る本ですね。
色々な定跡書で勉強する前に、まずこの本を読む方が手の理解度が上がり勉強の効率がよくなると思いますよ。
第1章の「相対性理論」を知ると指し方が変わる
「7つの理論」の名前だけでもザっと紹介したいんですが、名前を書くとちょっと理論のネタバレになるかもしれないので割愛します。1つだけ名前を言っても核心に触れすぎないから大丈夫そうな
「相対性理論」
だけちょっと触れたいと思います。
県内屈指のバカ高校に通っていた私は勉強をサッパリしていなかったのでアインシュタインの「相対性理論」も分からないんですが、将棋の世界にも「相対性理論」というものがあるそうです。
将棋の場合の「相対性理論」を大雑把に言うと
「相手の動きに合わせた指し方をする」
という感じになります。
これは将棋の格言の1つである
「棋は対話なり」
に通ずるものがある理論ですね。
ただ、この「相手に合わせる」の意味合いが過去と現在では変わってきているんです。
今から20年近く前の私が高校生の頃は
「相手が攻めの手を指しているから、やられないように受けの手を指す」
という感じで
「対話のように指し手から相手の考えを理解して対応する」
みたいな解釈でしたが現代はちょっと違うようです。
詳しくは書けないんですが、本書で解説される
「現代流の相手に合わせた指し方」
を知れただけで大きな収穫になりました。
ここ最近、「きのあ将棋」の「郷谷さん」相手に「後手番一手損角換わり」をやっていて「棒銀」でこられた時に
「腰掛け銀」で迎え撃つより「早繰り銀」の方が性に合ってる気がする・・・
という感じで漠然と
「早繰り銀」の方が良さそう・・・
と感じていたけど言語化できなかった感覚がちょっと理解できた気がします。
「攻め」や「受け」の考え方が従来と違う感じになっているのを知れたのは今後に役立ちそうです。
「相対性理論」は知るだけで将棋の指し方が変わる大切な理論だと思います。
現代将棋の基本となるこの理論を知っているか知らないかで後々大きな差になるかもしれません。
現代の主流戦法は「明確な理論」の元に成り立っている
現代では主流になった指し方として・5手目▲7七銀の矢倉(下図)
・角換わり▲4五桂急戦(下図)
といった戦法を何となく本で勉強して知っている方はいると思います。
でも
「なんで▲7七銀型なのか」
「▲4五桂急戦のような速攻がもたらした影響」
などについて明確に説明できる人は少ないですよね?
これらの戦法についても「7つの理論」を知ることで論理的に理解することができます。
AIによって生まれた
・エルモ囲い
・左美濃急戦
のような現代を代表する駒組みも「7つの理論」を元に解釈することで理解度が爆上がりしました。
以前書いた「矢倉左美濃急戦 基本編」のレビューで最初に愚痴った
「▲7九角 と引く矢倉の手がなんか嫌い」
「左美濃急戦の角筋を急所に通した形が好き」
という漠然と思っていた感覚も、この本で解説されていた理論を無意識に感じていたからと分かってスッキリできたのは大きかったです。
「あの感覚は間違いじゃなかったんだ・・・」
と第4章には共感しまくりでしたよ。
長年続いていたモヤモヤが解消できたのは感謝しかありません。
現代の細かい序盤戦術をキッチリ理論として言語化できると見えてくるものが変わってくるので
「将棋の手について言葉にできないモヤモヤがある・・・」
「どうにかしてこの漠然とした感覚を言語化したい・・・」
という方は理解度を上げるためにも迷わず買いですね。
定跡よりも「7つの理論」を元に手を考えると良い手が見つかるかも
かなり昔に羽生さんが「定跡を忘れてまっさらにして考えるといい」
みたいなことを言っていたと思いますが、それはおそらく羽生さんなりの理論を元に新手を見つけていたんだと思います。
「天才だからこそ定跡を越える一手が見つけられるんだろうなぁ・・・」
と遠い感覚としか思えませんでしたが、この本で「7つの理論」を理解してくると
「この局面ではどういう考え方をする必要があるのか」
というのが分かってきて将棋というゲームの根幹が見えてきそうな感覚になってきます。
明確な基準ができることで漠然とした感覚でしかなかったAIで言う所の評価値みたいなものが鮮明になってくるというか・・・
そうなってきた時、羽生さんのように定跡とか無視して「7つの理論」を元に考えると良い手が浮かぶかもしれません。
定跡の一手も「7つの理論」を知ってから見ると
「あ~・・・これは『〇〇理論』の一手じゃないか・・・」
という発見がありますし、以前よりも見えてくるものが変わってくるのは事実ですから。
理論を深く理解することでアマチュアでも
「指されてみるとこの手しかない・・・」
と感嘆されるような最善手が見つかるかもしれません。
「AIのマネ」や「定跡本の暗記」
などで現状の最善手とされている手を指すのもいいですが、「7つの理論」を元に必死で考えると新しい発見があったりして楽しさも上がると思います。
この本は、漠然としていた感覚をしっかり見える形として理解させてくれる本だと思うので、
「今までは見えなかった手が見えるようになったかも・・・」
という大きな成長に繋げることが大切だと思います。
最後に
「現代将棋を読み解く7つの理論」という本は
「将棋の勉強するなら定跡本を読む前にまずこれを読んだ方がいい」
と言えるほど将棋を指す上で必要な考え方を明確に理解させてくれる最高の本です。
「現代将棋の感覚をしっかり学びたい」
「手の意味を論理的に理解したい」
「将棋というゲームの本質に触れたい」
といった思いがある方は特に読む価値がありますよ。
定跡なども「7つの理論」を元にすれば論理的に解釈できますし、この本を読む前と後では将棋の理解度が変わりますから。
「漠然とではなくしっかりと将棋を理解したい」
なら定跡本よりもこの本から読んでみてください。
これから学ぶ将棋の理解度が爆上がりすること間違いなしですよ。