脱・初心者を目指すための
5級を越える将棋講座
第8回は
基本となる手筋「歩」編
の3回目として
「この一手を知ってるかで勝率が大きく変わる」
と言っても過言ではない
「叩きの歩」
を紹介します。
実戦の中でも特によく出てきて
「的確に使えるかで実力が分かる」
と言えるほど大切な歩の使い方になるので、この記事でしっかりコツを身につけてください。
「叩きの歩」とは・・・
「叩きの歩」というのは
「相手の駒の上」に「持ち駒の歩を打つ」一手
のことです。(下図)
「歩の手筋」の第1回で紹介した「合わせの歩」の一種ですね。
相手の「歩の上」に「歩」を打った時は「合わせの歩」と呼び・・・
「歩より価値の高い駒の上」に「歩」を打った時は「叩きの歩」と呼ばれるようです。
相手の駒の上に「歩」を打つと
「次に取れる形」
になるんですが
「歩より価値の高い駒」
の上に打った場合、そのまま取られると大損になるため
・歩を取る
・かわす(逃げる)
・駒を取らせる
といった急な対応を迫ることができ、
① 形を乱す
② 駒を上部に誘う
③ 駒の利きをそらす
④ 駒得の権利を得る
など
「すぐに何かしらの効果が出る」
のが「叩きの歩」のメリットですね。
実戦の中で最もよく現れ、使い方で大きく実力差が出るため「歩の手筋」の中でも特に大事な一手になります。
今から紹介する「叩きの歩」の効果的な使い方を覚え
「初心者にはできないワンランク上の歩の使い方」
ができるようになってください。
形を乱す「叩きの歩」
「叩きの歩」の基本になるのが形を乱す
という使い方になります。
その効果的な例を2つ紹介しますね。
駒の連結を断つ「叩きの歩」
まずは最も基本となる下図から。「3筋にいる金と銀」がガッチリと連結した壁になって竜の利きを止めていますが・・・
「金が動けば銀を取れる」
というのに気付くと、持ち駒の「歩」を使ってこの2枚の形を乱し、連結を断つ一手が浮かんできませんか?
「敵の駒を動かしたい」
という場合「叩きの歩」がピッタリな使い方になります。
たった一手で金と銀の連結を断つには・・・
上図以下、▲3三歩(下図)
▲3三歩 と打ち、動いて欲しい金に働きかけるのが好手です。
「歩を取る」か「逃げる」か・・・
それとも金を「取らせる」か・・・
を迫れば、後手は
「動かしたくない金」を「動かさないと大損する」
という状況になって困っています。
この▲3三歩 が「叩きの歩」を象徴する一手ですね。
どう対処しても後手はピンチを抜けられません。
素直に△3三同金(下図)と取るのは・・・
金との連結が外れて3一の銀が浮いたので・・・
上図以下、▲3一竜(下図)
ありがたく銀を取れば「王手金取り」が掛かり先手大成功です。
「歩を取れないなら・・・」
と△2二金 や△4二金(下図)とかわすのも・・・
上図以下、▲3一竜(下図)
銀への利きがなくなるので▲3一竜 と銀を取りながら王手を掛けて絶好調です。
上図で△4一金 と王手を受けても▲4二銀(下図)の「一間竜」を活かした銀打ちがあって受けになりません。
▲3三歩 に金を動かすのは得策ではないので、最善の対応は△6二玉(下図)と逃げることになるんですが・・・
上図以下、▲3二歩成(下図)
シンプルに金を取っておけば「歩」と「金」の交換になって先手ペースです。
上図以下、△3二同銀(下図)
後手は「と金」を取るくらいですが・・・
そうなれば一段目に竜の利きが通り、さっきまでの金銀の壁に止められていた形と比べたら雲泥の差です。
たった1枚の歩打ちで局面が大きく改善された「叩きの歩」の効果が伝わったでしょうか・・・
次はもう少し実戦的な例を紹介します
形を乱して寄せのキッカケを掴む「叩きの歩」
上図は、まだ手付かずな「美濃囲い」を2一の飛車だけが睨んでいる状態です。
「どこから手を付ければいいのやら・・・」
という感じですが「叩きの歩」で形を乱せば寄せのキッカケを掴むことができます。
上図以下、▲5三歩(下図)
5二の金を叩く▲5三歩 がその一手です。
どう対応しても美濃囲いを崩される展開になり、後手はちょっと困っています。
上図以下、△5三同金(下図)
素直に歩を取ると・・・
上図以下、▲6二銀(下図)
5二の金が上ずったスキを突かれ、美濃崩しの定番である▲6二銀 を食らってしまいます。
以下、△6二同金 と銀を取ると「王手金取り」の▲7一角(下図)が厳しく・・・
「叩きの歩」をキッカケに致命傷を負った最悪の展開になります。
▲5三歩 を取れないなら△6二金寄(下図)とかわす手が考えられますが・・・
上図以下、▲5四桂(下図)
逃げた金を狙って▲5四桂 と打てば攻めが続きます。
以下、△5三金 なら▲6二桂成・・・
△6三金 なら▲5二歩成・・・
と、いずれも「成った駒を取れば▲7一角」が決まって先手ペースです。
▲5三歩 には△5一金引(下図)と逃げる手もありますが・・・
上図以下、▲5二銀(下図)
▲5三歩 を拠点に▲5二銀 と打ち込めば「叩きの歩」が大威張りで先手ペースです。
たった一手の「叩き」から手が繋がる例でした。
▲5三歩 は美濃囲い崩しに有効なので、覚えておくと役立つと思いますよ。
駒を上部に誘う「叩きの歩」
「叩きの歩」には駒を上部に誘う
という使い方もあります。
それを効果的に使った手順を2つの例で紹介しますね。
駒を吊り上げて敵陣に入る
上図は、2筋を受けられて次の攻め手を探している局面です。
ここで▲2三歩(下図)と「合わせの歩」を打てば・・・
上図以下、△2三同歩 ▲同飛成(下図)
と竜を作ることができるんですが・・・
上図以下、△2二歩(下図)
平凡に△2二歩 と受けられると▲2六竜 や▲2八竜 と引くしかなくパッとしません。
どうにかして竜を引かず敵陣に入り込むにはどうすればいいのか・・・
こういう時に出番なのが「叩きの歩」です。
単に▲2三歩 と打つ前に一工夫して「ある駒」を叩けば△2二歩 と受けられた後に竜を敵陣に侵入することができます。
果たしてどの駒を叩くのがいいでしょうか・・・
局面を戻して実戦ならではの手順を紹介します。
ここですぐに▲2三歩 ではなく・・・
上図以下、▲1五歩(下図)
▲1五歩 と端に手を付けるのが好手です。
一工夫して叩きたい駒というのは
「1一の香車」
なので、まずは1筋に歩を使うために▲1五歩 と突き、あえて歩を取らせます。
上図以下、△1五同歩(下図)
放置すると▲1四歩 と取り込まれてしまうので後手は△1五同歩 と素直に取るのが無難です。
このように「歩を取らせて攻めに含みを持たせる手」を「突き捨ての歩」と呼びます。
メインの仕掛けの前に歩を取らせることで
・その筋に歩を打てるようになる
・いざという時に歩を取り返して「持ち歩の補充」ができる
・後では取ってもらえない歩を取らせることができる
・相手に形を決めさせてから仕掛けられる
などのメリットがある「歩の手筋」の一種ですね。
詳しく説明しなくても知識として入れておけばいいと思ったのでこのタイミングで紹介しました。
今回は「その筋に歩を打てるようになる」という利点を活かした攻め筋になります。
わざわざ
「1筋の歩を突き捨てた」
ということは・・・
上図以下、▲1二歩(下図)
狙い通り香車を叩くのが好手です。
後手はこのまま▲1一歩成 と香車を取られるわけにはいかないので・・・
上図以下、△1二同香(下図)
この歩は取る一手です。
たった1マス香車を上に誘った効果で次の一手の威力が爆上がりします。
上図以下、▲2三歩(下図)
次に▲2二歩成 と「と金」を作られたら困るので・・・
上図以下、△2三同歩 ▲同飛成(下図)
後手は素直に取るしかありません。
先手は▲2三同飛成 と竜を作り・・・
上図以下、△2二歩(下図)
最初と同じく△2二歩 と受けられましたが、ここで単に▲2三歩 と打った時との大きな違いがあるのが分かりますか?
先ほど▲1二歩 と打って香車を吊り上げた効果で・・・
上図以下、▲1二竜(下図)
スルッと敵陣に入ることができました。
次に▲2一竜 の桂取りもあり、後手陣は崩壊です。
竜を引くしかなかった失敗例と比べたら、たった1回 香車を叩いた効果の大きさが分かりますよね。
この攻め筋は実戦でもけっこう使えるので覚えておくと役立ちますよ。
香車を吊り上げて取る
もう1つ、香車を上部に誘うパターンの「叩きの歩」を紹介します。
上図は、先ほどはちょっと形が違いますが、4枚もある豊富な持ち歩を使い
「最終的には飛車で香車を取りながら飛車成りを狙う手順」
があります。
「叩きの歩」でもさらによく見る実戦的な使い方としてしっかり頭に入れてください。
上図以下、▲1五歩 △同歩 ▲1二歩(下図)
▲1五歩 の「突き捨ての歩」から▲1二歩 と叩く所までは同じです。
上図以下、△1二同香(下図)
ここで残り3枚ある歩の2枚を使って香車を目いっぱい吊り上げます。
上図以下、▲1三歩(下図)
もう1度 叩く▲1三歩 が連続して叩く「連打の歩」と呼ばれる手筋です。
香取りになっているので手を抜くと取られてしまうため、駒損をしたくないなら取る手を強要できるのが利点です。
ここで△1三同桂 と桂で取るのは▲1四歩(下図)と打てば桂が取れるので・・・
▲1三歩 は△同香(下図)と香で取りますが・・・
上図以下、▲1四歩(下図)
さらに叩く▲1四歩 で飛車の射程圏内に入れるのが好手です。
上図以下、△1四同香(下図)
ここで「歩の手筋 第1回」で紹介した「合わせの歩」の出番です。
上図以下、▲2四歩(下図)
ここから飛車を横に使うパターンで・・・
上図以下、△2四同歩 ▲同飛(下図)
「2一の桂取り」と「1四の香取り」が掛かり、歩しかない後手は両方を受ける術がありません。
さすがに飛車成りは許せないので・・・
上図以下、△2三歩 ▲1四飛(下図)
△2三歩 と受けますが、香車を目いっぱい吊り上げた効果で▲1四飛 と取れました。
おまけに後手が歩しか持っていないので飛車まで成り込める大成果です。
4枚も使ったとはいえ、歩だけでこんな攻めが決まるのはちょっと感動ですよね。
香車を吊り上げる手筋は定番中の定番なので、しっかり覚えて使ってみてください。
角と連携してピンチを凌ぐ
上部に駒を誘う「叩きの歩」の使い方として覚えておくと役立つのが「角と連携して棒銀を受ける手順」
です。
これを知っていると初心者の無理攻めを受け止めて簡単に負けなくなります。
上図は、棒銀を相手にした時に見かける形です。(現在、後手番)
後手がガンガン銀を前に出てきて
「棒銀成功!」
と言わんばかりの局面ですよね。
ここで踏みとどまれば互角だった所・・・
上図以下、△8七銀成(下図)
勢いに任せて銀を突っ込んできた場合・・・
「叩きの歩」を知っていればこのピンチを凌ぐことができます。
上図以下、▲8三歩(下図)
飛車取りに打つ▲8三歩 が無理攻めをトガめる一手です。
飛車を横に逃げると▲8七金 と成銀を取って先手勝勢なので・・・
上図以下、△8三同飛(下図)
後手は歩を取るしかありません。
こうして8三の地点に飛車を誘ったことで絶好の角打ちが生じています。
上図以下、▲6五角(下図)
この「飛車」と「成銀」の両取りが決まれば後手の攻めは失敗です。
▲7八成銀 と金を取れば△8三角成 と飛車を取って後手の攻めは切れていますし・・・
△8二飛 のように飛車を逃げれば▲8七角(下図)と成銀を取ればこれ以上の攻めは難しいです。
△8七銀成 で棒銀成功に見えた所、
わずか3手で切り返す▲8三歩 の叩きから▲6五角 の両取り
は無理攻めの棒銀をトガめる定番の手順なので、類似の局面になった時はしっかり受け切ってください。
駒の利きをそらす「叩きの歩」
最後に「駒の利きをそらす」という「叩きの歩」の使い方を紹介して終わります。上図は、あと少しで後手玉を寄せ切れそうな終盤戦です。
しかし、単純に▲2三銀(下図)と打ち込むと・・・
上図以下、△3一玉 ▲3二銀成 △同飛(下図)
良い感じに攻めが決まったように見えて、最後に△3二同飛 と8二にいた飛車が受けに働いて詰みません。
自玉が安全なら上図で▲2三歩成 とすれば先手勝ちなんですが
「詰むや詰まざるや」
の一手差を争う終盤の場合は負けです。
今回 詰まなかったのは8二の飛車の横利きが強力だったからなんですが
「最後の最後で飛車の横利きがあったから詰まなかった」
というのは実戦でけっこう見るパターンです。
こういった事態を避けるには「前もって飛車の横利きをズラしておく」必要があります。
そんな時に有効なのが「叩きの歩」なんです。
つまり、▲2三銀 と打つ前に▲8三歩(下図)と飛車を叩き・・・
上図以下、△8三同飛(下図)
もし取ってくれれば飛車の横利きがなくなるので・・・
上図以下、▲2三銀 △3一玉 ▲3二銀成 △同玉(下図)
▲2三銀 ~ ▲3二銀成 と王手を掛けた時に「飛車で取る手がなくなった」ため△3二同玉 と取るしかなく・・・
上図以下、▲2三歩成 △4一玉 ▲5三桂不成(下図)
と順調な王手が続き・・・
上図以下、△4二玉 ▲5一角 △同玉 ▲5二金(下図)
で詰みます。
ただ、今回の場合は▲8三歩 に△9二飛(下図)と横に逃げられると詰みません。
なので、叩くなら最終盤ではなく
・終盤に入るちょっと前
・中盤の少し余裕がある時
なんかにさりげなく▲8三歩 と叩いておくのが大切です。
中盤なら飛車を9筋に逃げると攻め味が消えてしまうので取る可能性が高く、対局を振り返った時、
「中盤に飛車を叩いて横利きを消しておいたのが最後に活きた」
「あそこしかないタイミングの絶好の叩きだった」
という密かな勝着になったりします。
飛車の横利きは受けに強力なので
「最後の最後に飛車が利いていない状況」
にするのは一歩を払う価値以上のものがあります。
もし対局中に
「飛車の横利きが最後の受けに働きそうだな・・・」
と感じ、中盤から終盤の入り口当たりでちょっと叩いてみる一手が浮かぶようになれば初段クラスですよ。
最後に
基本となる手筋「歩」編第3回として、かなり大切な
「叩きの歩」
を実戦的な手も交えて紹介しました。
・駒の連結を断つ叩き(下図)
・香車を吊り上げる叩き(下図)
・棒銀を受ける叩き(下図)
・飛車の横利きをそらす叩き(下図)
は、的確な場所で使えたら将棋の強さが爆上がりする手筋です。
たった1枚の歩を駒の上に打つだけで形勢に影響を与える「叩きの歩」
が指せるようになると本当に将棋が楽しくなりますよ。
まずは上記の基本となる使い方をしっかり覚え、実戦の中で使ってみてください。
最初の内は
「とりあえず歩で叩いてみる」
という感じでも悪くありません。
「叩く」
という発想を持っただけでも大きいですから。
「叩きの歩」は局面や形ごとに色々なパターンがあるので
「棋譜並べ」や「感想戦」
で上手い「叩きの歩」を見つけたらマネして取り入れていくと大きな成長に繋がりますよ。
基本であり極意でもある「叩きの歩」を覚えるには日々の経験も大切です。
対局を楽しみながら焦らずゆっくり上達していきましょう。
※「5級を越える将棋講座 第9回」は下記リンクからどうぞ。
【5級を越える将棋講座 ⑨】歩の手筋4「焦点の歩」で急所を突く歩の使い方を学ぶ - ダメ人間ブログ【ニートの愚痴と将棋の記録】