脱・初心者を目指すための
5級を越える将棋講座
第7回は
基本となる手筋「歩」編
の2回目として
「これを覚えれば『きのあ将棋』の初級レベルに勝てるようになる!」
と言っても過言ではない
・継ぎ歩
・垂れ歩
という2つの手筋を紹介します。
この記事では、この2つの合わせ技から生まれた
3歩持ったら「継ぎ歩」と「垂れ歩」
という格言を理解するまでを目指し、歩を的確に使った時の強烈な攻めを体感してもらおうと思います。
「継ぎ歩」とは・・・
前回 紹介した「合わせの歩」の応用で、歩の手筋の中でも「地味だけど決まるとけっこう強烈」
なのが
「継ぎ歩」
と呼ばれる手筋です。
「継ぎ歩」というのは
「突き捨て(打ち捨て)た歩」に「もう1度 歩を合わせる」
という不思議な歩の使い方をする手筋です。
言葉で言われても意味が分かりにくいので具体例を紹介します。
両狙いを達成する「継ぎ歩」
「継ぎ歩」の使い所としてメジャーなのが下図です。7五に浮いている銀を上手く取りたいんですが、▲2五飛 と単に狙うと逃げられてしまいます。
こういう時は「銀取り」の他に「もう1つ厳しい手」を狙う「両狙い」が効果的です。
そこで出番なのが「継ぎ歩」なんです。
具体的な手順を紹介しますね。
上図以下、▲2四歩(下図)
まずは2四に歩を打つ「合わせの歩」から始まります。
放置すると▲2三歩成 が厳しいので△2四同歩(下図)と取るしかありません。
ここで「継ぎ歩」の名の通り「歩を継ぐ」のがポイントです。
上図以下、▲2五歩(下図)
突き捨てた歩にもう1度 歩を合わせる▲2五歩 が好手になります。
パッと見では
「タダで2枚も歩をあげちゃうの?」
って思いそうな手ですが、これが厳しい狙いを秘めた一手なんです。
もし△1四歩 のように放置したら▲2四歩(下図)と取り込めば 次の▲2三歩成 が厳しいので・・・
▲2五歩 は素直に△同歩(下図)と取るしかありません。
何でもない手に見えた▲2五歩 は、すでに手を限定するほどの力を秘めた一手なんです。
このまま何もなければ2歩損になるんですが、先手の思うままに2五まで歩を進めたのを活かし・・・
上図以下、▲2五同飛(下図)
歩を取りながら2五に飛車を出れば・・・
・▲7五飛 と銀を取る
・▲2三歩 と角取りに歩を打つ
という「たった2枚の歩」で得たとは思えない強烈な両狙いが達成されます。
2回 歩を合わせられただけなのに、後手は「銀」か「角」を失うことが確定してしまいました。
これが「継ぎ歩」の効果です。
単に▲2五飛 と出た場合とは雲泥の差ですね。
「継ぎ歩」には他にも上手な使い方があるんですが、
次に紹介する「垂れ歩」と組み合わせるのが効果的
なので「垂れ歩」の解説をした後に応用パターンを紹介します。
「垂れ歩」とは・・・
歩の手筋の中でも「決まれば勝ち」
な強烈さを持っているのが今から紹介する
「垂れ歩」
と呼ばれる手筋です。
「垂れ歩」というのは、持ち駒の歩を敵陣の前や中にちょっと控えて打ち
①「と金」を作る
② 拠点にして打ち込みを狙う
といった「次に厳しい狙いを秘めた」歩の使い方です。
これだけだとよく分からないと思うので、具体例としてよく見る局面を元に解説します。
①「と金」を作る「垂れ歩」
「垂れ歩」が有効な典型例が下図の形になります。相居飛車の将棋で飛車先の歩を交換し、▲2八飛 と引いた時に△2三歩 と受けなかった局面ですね。
これは初心者がやらかしがちな
「受けるべき所で受けなかった」
という致命的なミスで、このミスをされた場合、
「垂れ歩」
を知っていればあっという間に勝勢へ持ち込めます。
それがこの一手です。
上図以下、▲2四歩(下図)
ちょっと控えて打った▲2四歩 が「垂れ歩」と呼ばれる一手です。
先ほど紹介した①に当たる
「と金」を作る「垂れ歩」
が決まった定番の形で、次に▲2三歩成 と角頭に「と金」を作る手が受からず、
・2筋の突破が目前
・「歩」が「角 か 金」と交換できる
という超絶お得な状況になっています。
角を取られるわけにはいかないので指すなら△3四歩(下図)と角の逃げ道を開けるくらいですが・・・
上図以下、▲2三歩成(下図)
当初の予定通り「と金」を作れば△4四角 と逃げられても▲3二と と金を取れば先手勝勢です。
もし「垂れ歩」を知らず、初手に▲2三歩(下図)と角の上に歩を打った場合・・・
角取りなので一見 厳しそうに見えますが・・・
上図以下、△1三角(下図)
スッとかわされた時に次の手がありません。
この失敗例と比べると▲2四歩(下図)と控えて打つ「垂れ歩」の強烈さが分かりますね。
歩を打つ場所が「たった1マス違うだけ」で大きく結果が変わる手筋の面白さが何となく伝わったでしょうか・・・
直接 角を狙う▲2三歩 ではなく▲2四歩 のような
「次に狙いを秘めた一手」
が浮かぶようになれば脱・初心者ですね。
② 拠点にして打ち込みを狙う「垂れ歩」
先ほどの「と金」と作る「垂れ歩」
がメジャーな使い方なんですが、もう1つの
拠点にして打ち込みを狙う「垂れ歩」
も強烈なので具体例を紹介します。
上図は、角換わりで2筋の歩を交換した後、△2三歩 と受けなかった局面です。
「と金」を作る「垂れ歩」
しか知らないと見落としがちな一手で先手優勢になります。
上図以下、▲2四歩(下図)
次に▲2三歩成 としても△同銀 と取られてしまうので「垂れ歩」は使えないと思うかもしれませんが、ここでも▲2四歩 の「垂れ歩」が有効になります。
これが次に持ち駒の角の活用を見た
打ち込み狙う「垂れ歩」
です。
けっこう読むことが多くて難しいんですが、部分的にはこれで後手は受けが難しくなっています。
もしこのまま△1四歩(下図)と2筋を放置した場合・・・
上図以下、▲2三角(下図)
「垂れ歩」を拠点に▲2三角 と打ち込むのが強烈です。
放置すると▲3二角成 △同玉 ▲2三金 とシンプルに打ち込まれて潰れるので・・・
上図以下、△2三同銀 ▲同歩成(下図)
△2三同銀 と取るくらいですが、▲同歩成 と取り返せば2筋を破って先手勝勢です。
このように物量で押す「垂れ歩」の使い方もあります。
ちなみに、▲2四歩 の「垂れ歩」に△2三歩(下図)と「合わせの歩」の手筋を使って角の打ち込みを阻止してきた場合は・・・
上図以下、▲2三同歩成(下図)
普通に歩を取れば手が続くので大丈夫です。
△2三同銀 と銀で取ってきたら▲2四歩(下図)と打ち・・・
以下、△1二銀 なら▲2三角 の打ち込みがありますし・・・
△1四銀 なら▲1五歩 と銀取りに歩を伸ばせば駒得が確定して先手ペースになります。
「銀で取るのがダメなら・・・」
と△2三同金 と金で取ってきた場合も▲2四歩(下図)と打ち・・・
△1四金 なら▲1五歩 で金が取れるので、△3三金(下図)とかわしますが・・・
上図以下、▲4五桂 △3二金 ▲2三角(下図)
と桂馬が攻めに参加した形で▲2三角 が入るので完全なる勝勢になります。
なので、無難に収めるなら△2三歩 の合わせに▲同歩成 △同銀 ▲2四歩(下図)とされた時・・・
ヘタに銀を逃げず、△2四同銀(下図)と取る方がいいです。
上図以下、▲2四同飛 △2三歩 ▲2八飛(下図)
「歩」と「銀」の交換ですが「潰れるよりはマシ」という判断ですね。
ちょっと説明が長くなりましたが
打ち込みを狙う「垂れ歩」
は、けっこう変化の余地があるから難しいけれど・・・
「決まれば有効」
というのが伝わればいいかなと思います。
「垂れ歩」のまとめ
歩を1マス控えて打つことで① 「と金」を作る
② 拠点にして打ち込みを狙う
といった
次に「歩」の力を最大限に活かした強烈な狙いがある
のが「垂れ歩」の効果です。
すぐの見返りを求めず、
次に厳しい手を狙う方が効果的
という読みの入った指し方を「垂れ歩」から感じ取ってください。
~応用手筋~ 3歩持ったら「継ぎ歩」と「垂れ歩」
「継ぎ歩」と「垂れ歩」を覚えた所で、応用へ進みます。将棋には
「3歩持ったら継ぎ歩と垂れ歩」
という格言があるんですが、それはここまでに学んだ
「継ぎ歩」と「垂れ歩」2つを組み合わせるとより強力な技が掛かる
ことからきています。
格言通り、
持ち駒に「歩」が「3枚」以上ある時
に狙える手筋で
「継ぎ歩」をした後に「垂れ歩」を狙う
んですが、その強烈さが分かる具体例を紹介します。
「3歩持ったら継ぎ歩と垂れ歩」の基本
上図は「継ぎ歩」の解説をした図から7五の銀がいなくなった形です。
「銀がいないなら手がなくない?」
と思うかもしれませんが
「持ち駒にある3枚の歩」
を最大限に活用すれば、弱点の角頭を狙う強力な手順があります。
それが今から紹介する「3歩持ったら継ぎ歩と垂れ歩」の複合手筋です。
まずは「継ぎ歩」から始まるので・・・
上図以下、▲2四歩(下図)
定番の合わせから・・・
上図以下、△2四同歩 ▲2五歩(下図)
歩を継ぎます。
上図以下、△2五同歩(下図)
歩を2五まで吊り上げた所がポイントの局面です。
数分前の「継ぎ歩」を学んだばかりの段階でこの局面を見せられても
「7五に銀がいないなら▲2五同飛 に△2三歩 って受けられてダメじゃない?」
という感じで次の手が浮かびもしなかったかもしれませんが
「垂れ歩」
を学んだ今なら「絶好の一手」が浮かんでいませんか?
上図以下、▲2四歩(下図)
ここで▲2四歩 と「垂らす手」が浮かんだあなたはこの数分で成長しています。
上図以下、△4二銀 ▲2五飛(下図)
歩を垂らしてから▲2五飛 と歩を取れば
次に「と金」を作る「垂れ歩」の成功パターン
になり、後手は▲2三歩成 を受ける術がありません。
2三の地点に歩がある状態でも「垂れ歩」を決めることに成功しました。
これが「継ぎ歩」と「垂れ歩」を組み合わせた効果です。
「継ぎ歩」で歩を吊り上げて「垂れ歩」のスペースを作る
という合わせ技・・・
これを最初に思いついた人は天才ですね。
ちなみに、今回の場合、▲2四歩 と垂らした後に△4二銀 ではなく△3四歩(下図)と角道を開け・・・
上図以下、▲2五飛 △3三桂(下図)
▲2五飛 に△3三桂 と飛車取りに当てながら跳ねれば、後手は最悪の事態を避けられます。
上図以下、▲2八飛 △2五歩(下図)
先手は飛車を取られるわけにはいかないので▲2八飛 と引くしかなく、桂の利きに△2五歩 と打てば▲2三歩成 は△同金 と取れるので受かっています。
ただ、この場合でも▲2四歩 の拠点ができたことが大きいので問題ありません。
後に「銀」や「香」のような駒が手に入った時に2三から打ち込む手があり、後手は迂闊に駒を渡せなくなりますから。
▲2四歩 を取りに△1四歩 ~ △1三角 ~ △2四角 と3手も掛けてくれればそれはそれでいいですし・・・
たった3歩で大きな負担を与えただけで意味があります。
もし最初の図を見た時にこの受けの形まで読んで
「継ぎ歩」と「垂れ歩」をやっても「と金」攻めが決まらなくない?
と思った方はもう2級 ~ 初段クラスなので講座を卒業して実戦をお楽しみください。
「継ぎ歩」と「垂れ歩」の応用問題1「矢倉を攻略」
もう少し実戦的な形で「継ぎ歩」と「垂れ歩」を使った形を紹介します。上図は「角換わり」や「矢倉」などで見かける形です。
3三の銀がいなければ▲5五角 の王手飛車がある
という欠点を狙った攻めとして「継ぎ歩」と「垂れ歩」が有効になります。
すぐ解説してもアレなので、ここでどう指すか考えてみてください。
答えは数行下に書きます。
では答えです。
上図以下、▲2四歩(下図)
まずはこの突き出しから始まります。
△2四同銀 は▲5五角 の王手飛車なので・・・
上図以下、△2四同歩 ▲2五歩(下図)
△2四同歩 と取りますが、そこで▲2五歩 と「継ぎ歩」するのが好手です。
放置すると▲2四歩 と取り込み、次に▲2三銀 の打ち込みを狙って充分なので・・・
上図以下、△2五同歩(下図)
素直に取るのが無難です。
ここで歩を2五に誘った効果で▲2五桂 と跳ねる権利を得たのも「継ぎ歩」の効果です。
この形でも▲2五桂 が強烈ですが、今回は「垂れ歩」の講座なので・・・
上図以下、▲2四歩(下図)
▲2四歩 と垂らす手を解説します。
後手としてはどうにか歩を処理したいんですが・・・
△2四同銀 は▲5五角 の王手飛車がありますし・・・
あえて触らず△1四歩 のように待機すると▲2五飛(下図)から▲2三銀 の打ち込みを狙われる・・・
といった感じで▲2四歩 の対処に困る展開になりますね。
歩だけの攻めでこれだけの成果が挙げられるのが「継ぎ歩」と「垂れ歩」の効果です。
実戦で決まると気持ちいいので、3歩持ったら狙えないか考えてみてください。
「継ぎ歩」と「垂れ歩」の応用問題2「穴熊崩し」
「継ぎ歩」と「垂れ歩」を活用した手順として穴熊崩し
に使った場合を紹介します。
上図は、先手が「玉頭位取り」で「穴熊」の上部に厚みを築いた所です。
ここで「継ぎ歩」と「垂れ歩」を使って穴熊を崩す手順があります。
どうすれば穴熊を崩壊させられるでしょうか・・・
答えが浮かんだらスクロールしてください。
では答えです。
上図以下、▲8四歩(下図)
穴熊の急所である8筋の歩を突くのが正解です。
もし△6四歩 のように8筋を放置したら▲8三歩成(下図)と歩を成り・・・
△8三同銀 なら▲8四歩 △同銀 ▲8五歩 で銀得できますし・・・
△8三同金 なら▲8四歩 △同金(下図)と上に誘ってから・・・
▲8七香 でシンプルに串刺しにしたり・・・
▲8五歩 △8三金 ▲8四香(下図)と攻めたりすれば穴熊は持ちません。
なので▲8四歩 は△同歩(下図)と取りますが・・・
上図以下、▲8五歩(下図)
▲8五歩 と歩を継ぐのが好手です。
放置して▲8四歩 と取り込めれば▲8三桂 の王手が厳しいので・・・
上図以下、△8五同歩(下図)
素直に歩を取るしかありませんが・・・
上図以下、▲8四歩(下図)
歩を吊り上げて空いたスペースに▲8四歩 と垂らせば後手は受けが難しいです。
以下、攻め方の一例です。
上図以下、△6四歩 ▲8三桂(下図)
拠点を活かして▲8三桂 と王手を掛ければ穴熊は崩壊します。
上図以下、△8三同銀 ▲同歩成(下図)
後手は取るしかないので急所に「と金」ができました。
この「と金」を放置してもダメなので・・・
上図以下、△8三同金 ▲7一飛成(下図)
△8三同金 と取るくらいですが、▲7一飛成 と浮いた金を取れば完了です。
「継ぎ歩」と「垂れ歩」で拠点を作る強烈さが伝わったでしょうか・・・
穴熊に限らず「美濃囲い」を上から攻める場合も有効な攻め筋になります。
どんな戦形でも「3歩持ったら継ぎ歩と垂れ歩」を狙うと一気に勝負を決められるかもしれませんよ。
最後に
基本となる手筋「歩」編の2回目として、特に強烈な
・継ぎ歩
・垂れ歩
と、それを複合した
3歩持ったら「継ぎ歩」と「垂れ歩」
の基本的なパターンを解説しました。
これらを理解すれば歩の使い方が大きく変わってきて
地味に見える歩の合わせから勝負を決める攻めを繰り出す
といった強い人のような勝ち方をするキッカケを掴みつつあります。
実戦で試し、上手く決まった時の楽しさを体感できるようになってもらえたら嬉しいです。
ちなみに、
「これを覚えれば『きのあ将棋』の初級レベルに勝てるようになる!」
と最初に書いた通り、きのあ将棋の初級レベルには
「垂れ歩」が決まる局面が多く出てくる傾向がある
ため、ミスに気付いて「垂れ歩」を決めれば一気に勝勢に持っていけますよ。
具体例として「垂れ歩」で勝った実戦譜のリンクを貼っておきます。
初級レベルのミスに気付けるようになれば5級は目の前なので、ミスをトガめてキッチリ勝てるように頑張ってください。
※「5級を越える将棋講座 第8回」は下記リンクからどうぞ。
【5級を越える将棋講座 ⑧】歩の手筋3「叩きの歩」を覚えて「決め手」になる歩の一撃を狙おう - ダメ人間ブログ【ニートの愚痴と将棋の記録】